YAGレーザーは「金属の精密加工に強いレーザー」として、板金加工や微細加工の現場で長く使われてきました。波長1.06μm(近赤外線)という特性が金属への吸収率の高さを生み、薄板SUSや反射素材(銅・アルミ)の加工で本領を発揮します。
本記事では、YAGレーザーの発振原理から特徴・用途・他レーザーとの違いまでを整理し、板金加工現場でYAGがどう使われているかを巴製作所の現場知見をもとに解説します。CO2レーザーとファイバーレーザーとの比較、コスト・運用面の現実、選定の判断軸まで網羅します。
YAGレーザーとは
YAGレーザーは固体レーザーの代表格で、Nd:YAGと呼ばれる結晶を発振媒質とするレーザーです。1964年に米ベル研究所で発明されて以来、金属加工・医療・通信など幅広い分野で活用されてきました。板金加工の現場ではCO2レーザーと並んで定番の方式として位置づけられています。
名前の由来と発振原理
YAGとは「Yttrium Aluminum Garnet(イットリウム・アルミニウム・ガーネット)」の頭文字で、母材となる結晶の組成です。この結晶にネオジム(Nd)を微量添加したものが「Nd:YAG結晶」で、外部からフラッシュランプ(または半導体レーザー)で励起すると、特定波長の光を増幅・発振します。
気体(CO2レーザー)や光ファイバー(ファイバーレーザー)が媒質となる方式と異なり、YAGは固体結晶が媒質という点が大きな特徴です。その結果、ビーム品質が安定しやすく、繊細な制御がしやすいレーザーとして知られています。
波長1.06μmが意味すること
YAGレーザーの波長は1.06μm(1,060nm)の近赤外線域。この波長は金属の自由電子に効率良く吸収されるため、鉄・ステンレス・チタンといった金属の加工で高い加工性能を発揮します。CO2レーザー(波長10.6μm)と比べると約10分の1の波長であり、ビーム径を絞りやすく集光性に優れる点も重要な物理的特徴です。
巴製作所のCO2レーザーとYAGレーザーの違いガイドでも触れていますが、波長の違いがそのまま素材吸収率の違いになり、得意素材・加工品質・選定基準に連鎖します。YAGはこの「短波長+高集光」の特性で、CO2では難しい精密加工領域を担っています。
YAGレーザーの主な特徴
YAGレーザーが金属加工で選ばれる理由は、波長特性に起因する3つの強みに集約されます。
金属吸収率が高い
近赤外線域(1.06μm)はステンレス・鉄・チタン・銅・アルミなどの金属表面の自由電子に効率的に吸収されます。CO2レーザー(10.6μm)が金属への入射時に大きく反射されるのに対して、YAGレーザーは吸収率が一桁高く、薄板の精密切断や微細加工で安定した品質を出せるのが大きな強みです。
集光性に優れ精密加工に強い
波長が短いほど集光ビーム径を小さく絞れます。YAGレーザーはビーム径を100μmオーダーに絞れるため、微細な切断・穴あけ・マーキングが可能です。熱影響範囲(HAZ:Heat Affected Zone)も小さく、加工部周辺の歪みや変色を抑えた高品質な仕上がりが得られます。
巴製作所のYAGレーザーによるSUS微細穴加工事例のように、極薄ステンレスにφ0.5mm前後の精密穴を多数開けるような用途で、YAGの集光性が直接的な加工価値になっています。
反射素材にも対応しやすい
銅・アルミ・真鍮といった反射率の高い素材は、CO2レーザーでは反射が強すぎて加工が不安定になります。YAGレーザーは波長帯が異なるため吸収率が改善し、反射素材の薄板加工も現実的になります。半導体製造装置・電気電子分野で銅・アルミの加工が必要な場面で、YAGが選ばれる大きな理由です。

YAGレーザーの加工用途
YAGレーザーは「切断・穴あけ・マーキング・溶接」の4領域で幅広く使われています。それぞれの用途で求められる仕様と、YAGが選ばれる理由を整理します。
切断
板厚0.1〜2mm程度の薄板SUS・鉄・チタン・銅・アルミの切断で広く採用されます。集光ビームが細いためカーフ幅(切り代)が狭く、複雑形状や小さな穴の切り出しでも歪みを抑えた仕上がりが得られます。
微細穴加工
φ0.1〜0.5mmクラスの精密穴を多数開ける用途では、YAGレーザーがほぼ唯一の選択肢になることもあります。フィルタ・スクリーン・センサ部品のような、小さな穴の数と精度が品質を左右する加工で活用されます。
マーキング・彫刻
金属表面への型番・ロゴ・QRコード・ロット番号の刻印もYAGの代表用途です。インクや塗料を使わず、レーザーで素材表面を直接変質させるため、耐摩耗性・耐熱性に優れた永久マーキングが可能です。半導体パッケージや工具・刃物のシリアル刻印が代表例です。
溶接
薄板同士の点付け・シーム溶接にもYAGレーザーは使われます。ビーム径が絞れるため、HAZが小さく歪みの少ない精密溶接が可能。特に医療機器・電池ケース・精密機械部品のような、外観品質と気密性の両方が要求される用途で採用されています。
他のレーザーとの違い【比較表】
YAGレーザーの位置づけを正しく理解するには、CO2レーザーとファイバーレーザーとの比較が欠かせません。波長・吸収率・運用コスト・量産性の観点で違いを整理します。
| 項目 | YAGレーザー | CO2レーザー | ファイバーレーザー |
|---|---|---|---|
| 波長 | 1.06μm | 10.6μm | 1.07μm |
| 発振媒質 | Nd:YAG結晶(固体) | 炭酸ガス | 光ファイバー |
| 金属吸収率 | 高い | 低い(厚物切断時は酸素アシストで補う) | 高い |
| 得意素材 | 金属薄板・反射素材・微細加工 | 非金属+厚物金属 | 金属全般、特に量産 |
| ビーム品質 | 安定 | 標準 | 非常に高い |
| 運用コスト | 励起ランプ交換が必要 | ガス補充・光路調整 | 消耗品が少なく低コスト |
| 量産性 | 中 | 厚物で高い | 薄板量産で最も高い |
CO2レーザーとの違い
もっとも大きな違いは波長と得意素材です。CO2は非金属(アクリル・木材・布・革)と厚物金属に強く、YAGは薄板金属と反射素材の精密加工に強い。波長10倍の差が、加工現場では「使い分け」に直結します。巴製作所はCO2・YAGの両方を保有しており、素材と用途で最適な機種を選んで加工しています。
ファイバーレーザーとの違い
波長は近接(YAG 1.06μm/ファイバー 1.07μm)ですが、ファイバーレーザーは光ファイバー内で発振するためビーム品質が一段高く、エネルギー効率も30%以上と良好です。薄板の高速量産ではファイバーが圧倒的に優位ですが、繊細な微細加工と多品種少量対応の安定性ではYAGに分があります。当社のYAGレーザー加工機(アマダ製、加工範囲1,000×1,000mm)は、平成11年(1999年)の導入以来、試作・小ロット領域での主力機として運用しています。
板金加工現場での使いどころ
板金加工の現場目線で、YAGレーザーの「ここで使うと効く」というポイントを整理します。
薄板SUSの精密切断
板厚0.1〜2mmのSUS304・SUS316L・SUS430などの精密切断はYAGの代表用途です。歪みや変色を抑え、二次加工(バリ取り・研磨)の手間を軽減できる仕上がりが得られます。SUS304薄板プレートのレーザー切断事例では、CO2とYAGを使い分けて微細から大判まで幅広く対応しています。
反射素材の加工
銅・アルミ・真鍮など、CO2レーザーでは反射が強くて加工が安定しない素材も、YAGなら現実的な加工が可能です。電子部品・電装部品・熱交換器などで反射素材の薄板加工が必要な場合、YAGまたはファイバーが選定肢になります。
試作・少量対応
YAGレーザーはプログラム変更が容易で、段取り替えにも柔軟です。図面のない手書きスケッチ段階の試作1個から、数十個の少量量産まで、品種が頻繁に変わる現場で扱いやすい特徴があります。巴製作所では、サンプル品の持ち込みや手書きスケッチからのご相談にも対応してきた実績があり、YAGがその柔軟性を支えています。
YAGレーザー導入のコストと運用
YAGレーザーは初期投資・ランニングコストともに中位に位置します。発振源には励起ランプの定期交換が必要で、ランプ寿命は使用条件によりますが概ね数百〜千数百時間。光学系の調整やフィルター清掃なども定期的に発生します。一方で、消耗品が少ないファイバーレーザーと比べると運用コストはやや高めです。
とはいえ、設備が既に稼働している現場では、無理に置き換えるよりも適材適所で使い分ける方が品質と納期の両面で有利になることが多い、というのが現場の実感です。当社でもCO2レーザー加工機(日平トヤマ製)とYAGレーザー加工機(アマダ製)を併用することで、素材や用途に応じた最適な加工を提供しています。
用途・素材別の選定ガイド
YAGレーザーが第一候補になるかどうかは、素材・板厚・量産規模で判断できます。以下の3軸で大まかに選定の方向性が見えてきます。
- 素材:金属薄板(特にSUS・チタン)/反射素材(銅・アルミ) → YAGが有力
- 板厚:0.1〜2mm の薄板 → YAGまたはファイバー
- 量産規模:試作〜小ロット(〜数百個) → YAG/量産(1,000個以上) → ファイバー
YAGレーザーでの加工をご検討の方、CO2・YAG・ファイバーの選定でお悩みの方は、両方の設備を保有する巴製作所にお気軽にご相談ください。試作1個や手書きスケッチからのご相談も承ります。
お問い合わせはこちらよくあるご質問
YAGレーザーに関して現場で頻繁に聞かれる質問を整理しました。実際の加工内容によって最適解は異なりますので、個別の案件は別途ご相談ください。
まとめ
YAGレーザーは波長1.06μmの近赤外線を活用した固体レーザーで、金属吸収率の高さ・集光性・反射素材への対応力という3つの強みを持ちます。CO2レーザーが非金属と厚物金属を担い、ファイバーレーザーが薄板量産を担うのに対し、YAGレーザーは「金属の精密加工」と「多品種少量」の領域で確かな存在感を保っています。
巴製作所では、創業51年にわたって精密レーザー加工に取り組み続け、YAGレーザー加工機(アマダ製)を平成11年から運用しています。SUS薄板の精密切断、反射素材の加工、試作品の対応など、内容にもよりますがまずはご相談を承っています。素材・板厚・量産規模をもとに、最適な加工方法をご提案いたします。
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