CO2レーザーとYAGレーザーの違いと選び方完全ガイド
概要
CO2レーザーは非金属(アクリル・木・紙・革・ガラス・樹脂)が得意、YAGレーザーは金属(鉄・ステンレス・チタン・アルミ・銅)が得意。理由は「光の色(波長)」が違い、材料が吸収するか反射するかで熱の入り方が変わるから。まずは「金属=YAG/非金属=CO2」を起点に、仕上がり(見た目)、スピード、コスト、安全の4点で最適化するのが失敗しない選び方。
目次
1. 一番大事な結論
- 金属ならYAG(1064nm)が基本。細く深くエネルギーが入り、切断・溶接・黒色の印字が得意。
- 非金属ならCO2(10.6µm)が基本。材料が光をよく吸収し、アクリルは切断面がツヤツヤ(鏡面)になりやすい。
- 例外:アルミや銅など高反射材は、YAGでも出力や条件を工夫したり、緑色(532nm)など別の波長を使うことがある。
まずはこのルールを出発点に、仕上がり(美観)/スピード(タクト)/安全/保守のしやすさで絞り込めば、難しい計算なしで方向性を外しにくい。
2. レーザーとは?むずかしい話は抜きで
レーザーは強い光を一点に集めて材料を温める道具。
- 切断:温めて溶かしたり焼き切る。
- 彫刻・印字:表面だけ色や凹凸をつける。
- 溶接:金属を溶かしてくっつける。
光の色(波長)によって、材料が「よく吸う(よく温まる)」か「はね返す(温まりにくい)」かが変わる。ここがCO2とYAGの最大の違い。
3. CO2とYAGの「光の色」(波長)が違う
- CO2:遠赤外線寄りの光。有機物・ガラスがよく吸う → 非金属向き。
- YAG:近赤外線寄りの光。金属が相対的に吸いやすい → 金属向き。
イメージとしては、コートが日光でポカポカになる素材の違いのようなもの。光をよく吸う素材ほど、少ない力で効率よく加工できる。
4. どんな素材に向く?ひと目でわかる相性表
素材 | 推奨レーザー | 備考 |
---|---|---|
鉄・ステンレス・チタン | YAG | 切断・溶接・黒色印字が得意 |
アルミ・銅・真鍮 | YAG(強め) | 高出力・条件工夫。場合により緑の光(532nm)を検討 |
アクリル | CO2 | 鏡面切断が狙える(看板・什器で人気) |
ポリカ・ABS・ナイロンなど樹脂 | CO2 | 安定(焦げ対策は必要) |
木・紙・革 | CO2 | クッキリ彫刻 |
ガラス・セラミック | CO2 | 表面彫刻(割れ防止に条件調整) |
※最終判断は実物サンプルの試し切り/試し印字が一番確実。
5. 切断の仕上がり:エッジの見た目と速さの違い
- CO2:非金属の大判・厚物で強い。アクリルは磨かなくてもツヤが出ることが多い。木や樹脂は焦げ・黄ばみが出やすいので、エアの当て方やスピード調整で抑える。
- YAG:金属の薄板〜中厚板で速く・キレイ。切断面のバリ(ギザギザ)が出にくい条件を作りやすい。
共通のコツ:焦点の位置/アシストガス(空気・窒素・酸素)/ノズル形状で見た目が大きく変わる。
6. マーキング(印字)・彫刻の違い
- YAGの黒色マーキング(アニール印字):ステンレスなどの表面色を変えてハガれにくい黒を作れる。医療機器や食品機器の識別コードに向く。
- CO2の彫刻:木・紙・革・ガラスで質感のある表現が得意。看板やギフトの名入れに向く。
QRやバーコードを入れるなら、印字の濃さ・コントラストが読み取りに直結。YAGは金属で安定しやすい。
7. 溶接・接合での違い(歪み・強さ)
- YAG:金属をピンポイントで深く溶かせるので、歪みが少ない溶接がしやすい。電池タブや精密部品でよく使われる。
- CO2:金属溶接にも使われるが、最近は省エネ・再現性の面でYAG(や同系のファイバー)が主流。
溶接は強さだけでなく、どれだけ変形しないかが重要。YAGはその点で有利になりやすい。
8. かかるお金・手間
導入費だけでなく、電気代・消耗品・清掃の手間・停止時間まで含めた総額(TCO)で見る。
- CO2:光学部品(ミラー・レンズ)の清掃・交換が要所。大判非金属の量産ならコスパ良好。
- YAG:省エネでメンテ少なめになりやすい。金属の量産ではトータルで安くなるケースが多い。
判断は「1個あたりの実コスト=(設備+運用)÷生産数」で比較するのがシンプル。
9. 安全・ニオイ・粉じん対策の基本
- 目の保護:CO2は目の表面、YAGは目の奥(網膜)にダメージの可能性。対応した保護めがねは必須。
- 煙・ニオイ・粉じん:材料ごとに集じん・脱臭を用意。CFRPや銅粉などは導電性にも注意。
- 反射対策:金属加工は光の跳ね返りが危険。角度、黒い塗装、保護窓でリスクを下げる。
10. 失敗しない選び方チェックリスト
- 主な材料は? → 金属ならYAG/非金属ならCO2を起点
- 求める見た目は? → アクリルのツヤならCO2/金属の黒い消えにくい印字ならYAG
- 厚みとサイズは? → 大判・厚物の非金属はCO2が楽/金属薄板はYAGが速い
- 量とスピードは? → 量産でタクトが厳しいなら、YAGのガルバノ印字や高速切断が有利な場合が多い
- 現場の手間は? → 清掃や保守を誰がどの頻度でやるかを先に決める
- 安全・環境 → 保護具、集じん、臭い対策を最初の見積に含める
- 最後は試作 → 実物で試し加工して、見た目・速さ・読み取り率・変形の有無を確認
11. まとめ
- まずは「金属=YAG/非金属=CO2」。
- 仕上がり(ツヤ/黒色印字)、速さ、手間、安全を同時に見る。
- 判断に迷ったらサンプル加工。見た目とタクトで”体感”すれば、答えは早い。